美人鰤「東洋美人との出会い」 - 大分県佐伯市蒲江・西野浦の養殖漁師が作り育てるブランド「美人鰤」の公式サイト

使うのなら一流の酒粕を使いたい。
東洋美人の酒粕で俺らのブリを育てられないか。
Meet "TOYO-BIJIN"

「東洋美人」との出会い

皆さんは「東洋美人」という日本酒をご存知だろうか。
山口県萩市で生まれたこの日本酒は、平成28年の日露会談で振る舞われたことでも有名だが、他にも2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会公認の日本酒にも選定されるなど、輝かしい経歴を持つ日本酒である。JALの国際線ビジネスクラスに搭載された経歴もあるので、その味を知る人はきっと多いはずだ。
しかしながら、このように日本を代表する日本酒の酒粕と、佐伯市蒲江 西野浦の鰤との間に、一体何の関わりがあるというのだろう。
ここでは、美人鰤を知る上で欠かすことのできない「東洋美人」について、その出会いから紐解いていこうと思う。

日本を代表する酒蔵、澄川酒造場

「東洋美人」は、日本酒通の間では知る人ぞ知る酒である。
平成28年12月15日、山口県で日露会談が行われた際、晩餐会の日本酒として出され、その美味しさに感動したプーチン大統領「これは何という銘柄の酒か?」と訪ねたという、今や海外からも注目される日本酒である。
蔵元は、山口県萩市の澄川酒造場。杜氏兼蔵元の澄川 宜史氏は、醸造業界の若き天才とも呼ばれる杜氏で、平成25年大水害で廃業を考える程の壊滅的打撃を受けたが乗り越え、澄川酒造場を、日本を代表する酒蔵の一つにまで急成長させた強者だ。

ある晩、美人鰤を作り上げたキーパーソンである“海の兄”こと浪井 満洋さんの行きつけの鮨屋「第三金波」で、「東洋美人純米大吟醸 特吟愛山」を飲みながら澄川さんの話を聞いた満洋さんと、“海の弟”こと教雄さんは、その生き様と仕事ぶりに強烈なインパクトを受けた。

「東洋美人の酒粕で、俺らのブリを育てられないか」
これこそが、のちに新ブランド「美人鰤」を誕生させる出会い、ターニングポイントだった。

人と人の縁が、海の兄と弟を「東洋美人」に繋ぐ

酒粕を使う。この件に関して実は、満洋さんと教雄さんには苦い経験があった。
以前、ある有名蔵元に酒粕を使わせてもらえないかと依頼した所、「うちの酒粕を家畜の餌にするなんて」と、門前払いを受けたのだ。
それでも、「使うのなら一流の酒粕を使いたい」というふたりの思いが揺らぐことはなかった。いい餌を使った魚をブランド化していくことは、取引先からの要望でもあった。そんなふたりから東洋美人の酒粕を使うことができないかと相談された「第三金波」主人の田中博さんは、携帯を取り出し澄川さんに電話をはじめた。
話は早かった。澄川さんの答えは◯(マル)だった。
「この2人の言う事なら断れんし、ブリにかける思いもさんざん聞かされちょるしな(笑)」

澄川さんの奥様・留美子さんが佐伯市出身という縁もあり、翌週には、澄川酒造場のある山口県萩市を3人で尋ねることになったのだ。

そして、ふたりのブリにかける思いの丈を聞いた澄川さんは、酒粕を使うことを直接快諾を頂く。
その日の夜、4人はしこたま飲んだ。美味い酒だった。

絶対にどこよりも美味い鰤を育てることを澄川さんに約束して、3人は萩を後にした。

澄川蔵元との約束が、美人鰤を実現に向かわせていく

「澄川さんの酒造りにかける思いは、同じくものづくりに生きる者として、学ぶもんが多かった。澄川さんが長州のサムライなら俺らは九州男児やけぇ、負けられん」
日本を代表する酒蔵の酒粕を使うのだから、これから作るブリは生半可なものでは駄目だ。一流の酒の名に恥じない一流のブリを育てる、そう言葉を交わした。

当然のことながら、「本当に美味しいブリを作り育てる」という目標に達するための道程は、そう生易しいものではなかった。
まずブリ自体の素養が最高に良いものでなくてはならない。だからこそ作り育てる漁業の技術であり、職人としての本流がある。まずそこを極めなくてはならない。それが満たされて初めて「東洋美人」の酒粕を餌に混ぜての養殖を試行錯誤していく。
100g単位で配合率を変えたり、与えるタイミングをずらしてみたりしながら、手探りで少しづつ、確信めいた何かを地道に積み重ねていく。
まだ見ぬ新ブランドの姿を想像しながら、美味しいブリを育てる作業は長い長い時間をかけて続けられた。

一流の酒の名に恥じない一流の美味しいブリを作る、これは満洋さんと教雄さんにとって、絶対に守るべき宝物のような約束だった。

鰤を「育てる」こと、酒を「つくる」ことの共通点

「酒粕を使用したいといオファーは、実はこれまでにも沢山あった。」のだという澄川さん。ではなぜ美人鰤については快諾してくれたのだろう。
澄川さんは、「自分のメインは“酒造り”です。だからメインではないものに闇雲に手を出しているように見えるのは嫌だと思っていた」
そこで第三金波の田中さんとの繋がりでやってきた、ふたりの漁師との出会いだ。
「ぜひ使ったくださいと衝動に駆られました。おふたりに会って“本物”を感じました。やはり本物同志でないとだめですね。もう2人は兄弟のようなものです」

澄川さんの酒つくりは、「できたから」ではだめで、「つくりに行く」ことが大切なのだという。
“たまたまできた美味しい酒”では駄目だ、ということだ。目指すものに真剣に向き合って、どんな酒をつくりたいのかの逆算をして“つくり”に行かないといけない。その心は、満洋さんと教雄さんの「魚を作り育てる職人として、自分たちが食べて美味しい鰤を育てたい」という思いと共通している。

酒つくりは伝統製法でもある。だから澄川さんは「未来に引き継いでいかなければなりません。商売が目的ではなく、“次世代に継いでいく”ことが目的。そのための手段が“おいしいお酒をつくる”ことなのです」と考え、日々酒づくりに向き合っている。
澄川さんは十四代で学んだ義務と責任を全うするために、その手段として自らが“こういう酒をのみたい”と思える酒をつくっている。奇を衒うような商品づくりは、ブームになっても文化にはなり得ないのだから。
“海の兄”こと満洋さんの「守らんといけん」という言葉が、まるで重なって聞こえてくるようだ。

「東洋美人」との出会いが生んだ「美人鰤」の未来

教雄さんたちの試行錯誤は、次第に新ブランド「美人鰤」の誕生へと結実していく。
その物語は別途、「美人鰤とは」と題して余すことなくしたためてあるので、ぜひ読んでもらえると嬉しい。

「美人鰤」の評判は口コミで静かに広まり、別府市内のレストランや、湯布院の有名旅館からも問い合わせが入るようになった。
大分市内の割烹では、それまで取り扱っていたブリをすべて「美人鰤」に切り替えた店もある。
まだまだ販促と言えるほどの活動はしていなかったものの、「旨いブリ」としてじわじわと「美人鰤」が受け入れられ始めた。そんな兆しを感じさせる滑り出しだ。

「東洋美人」との出会い、その酒粕を使用することへの澄川さんの快諾。
これは、互いの共通点に触れ合うことで生まれた、言うならば「共鳴」だったのかもしれない。

「自分のなかでの価値観として、“美しいものは、おいしい”があって、まさにこのブリを見たときに美しいなあと、艶があるなあと感じました。正直あまりブリは食べない方なのですが、極め細かい脂もあり、何切れでも食べれる感じでした」という澄川さん。
あえて美人鰤に合う東洋美人を選ぶとしたら、何ですか?と聞いてみた。
「“地帆紅(ジパング)”かな。東洋美人自体が繊細な味で品の良い旨味。口に拡がる美人鰤の旨味と、この酒のキレ具合が合うと思いますね」と答えてくれた。
出会いは絆に変わる。「東洋美人」と「美人鰤」は、今なお共鳴を続けている。

平成30年6月、「美人鰤」は正式に商標を取り、本格的にブランド鰤合戦の荒波に乗り出した。
そして今日、海の兄と弟がモジャコ(ブリの稚魚)から捕って育て作る「美しい味のブリ」は、いつか、海の向こうで「日本のサムライが育てたすごいブリがある」とニュースになるのかもしれない。山口から世界に羽ばたいた「東洋美人」のように。
Key person's profile

この物語のキーパーソン

うちの酒粕でどういうものが生まれるのか、ワクワク感しかなかった。

澄川酒造場 澄川 宜史さん

2021年で創業100年を迎えた澄川酒造場の、杜氏兼蔵元である澄川 宜史(たかふみ)さん。緊張の面持ちでやってきた2人の漁師の話を聞き、酒粕の使用を快諾してくれたその人。「わざわざ筋を通しに萩まできてくれたことには頭が下がる」とあの時の出会いを振り返る。育てる人の生き様がある鰤の本当の美味しさに出会い、他の鰤が食べられなくなったそう。酒造りでは誰にも負けないつもり、という情熱を持って取り組む姿勢は業界内でも一目置かれている。その他の詳しい紹介については、ぜひ以下の「東洋美人」Webサイトで確認して欲しい。そのこだわりと歩みに、誰しもがファンになれるはずだ。
株式会社澄川酒造場 山口県萩市大字中小川611番地 https://toyobijin.jp/

東洋美人は思い入れの深い日本酒

第三金波 田中 博さん

「世界一佐伯寿司」と名打つ、佐伯寿司文化の礎を築いた先代・田中 猛雄さんの血を継ぐ、「第三金波」の大将こと田中 博(ひろし)さん。東洋美人の澄川さんとの縁を、美人鰤兄弟の満洋さん、教雄さんへと繋いだキーパーソン。佐伯の魚をよく知り、漁場も漁師もすべてを愛してやまない人。「美人鰤は脂がくどくなく、臭さもない。特A級の天然ぶりが無ければ、迷わず美人鰤を使うと思う」というその言葉で、美人鰤の魅力を的確に表してくれる。田中さんのお店はは全国から佐伯の魚と日本酒と大将を楽しみにくるお客様も多い。興味のある方はぜひ以下のFacebookをチェック。
第三金波 大分県佐伯市内町3-28 https://www.facebook.com/kinpano3